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最高裁判所第一小法廷 昭和63年(行ツ)105号 判決

大阪市中央区本町四丁目一番一三号

上告人

株式会社竹中工務店

右代表者代表取締役

竹中統一

右訴訟代理人弁理士

北村修

同弁護士

岡田春夫

東京都千代田区五番町五番地

被上告人

日本カイザー株式会社

右代表者代表取締役

飛嶋康文

右当事者間の東京高等裁判所昭和六一年(行ケ)第二五号審決取消請求事件について、同裁判所が昭和六三年三月一五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人北村修、同岡田春夫の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤哲郎 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一)

(昭和六三年(行ツ)第一〇五号 上告人 株式会社竹中工務店)

上告代理人北村修、同岡田春夫の上告理由

上告人の上告理由は審理不尽、理由不備、理由齟齬よりなるが、上告理由の説明を容易にするために、まず、「上告に至るまでの経緯」及び「本判決の要旨」について言及した後上告理由につき詳述する。

第一 上告に至るまでの経緯

本件は、上告人の「コンクリートスラブ」に関する特許第一〇〇六一三二号発明(以下「本件発明」という)についてなされた、被上告人の特許無効審判請求に対する特許庁の無効審決の取消請求上告事件である。

本件上告に至るまでの経緯を簡単に述べると次の通りである。

上告人の本件発明は昭和五五年七月二四日に特許設定登録がなされたが、被上告人は昭和六〇年二月二〇日、上告人を被請求人として、甲第二号証に基づく新規性に関する理由と、本件発明は甲第三乃至第五号証刊行物に基づいて当業者が容易に発明することができたとの理由により、特許無効の審判を請求し、審理の結果、昭和六〇年一二月一〇日、「特許第一〇〇六一三二号発明の特許を無効にする。」との審決(以下「本件審決」という)があった。

上告人は本件審決を不服とし、昭和六一年二月一〇日、東京高等裁判所に対し本件審決の取消請求訴訟(以下「原審」という)を提起し、審理の結果、本件発明は甲第三号乃至第五号証刊行物に基づいて当業者が容易に発明することができたと認定し「原告の請求を棄却する」との判決(以下「本判決」という)がなされたものである。

第二 本判決の要旨

本判決を要約すると以下のとおりである。

一 原審本判決の要旨を記すと次のとおりである。

本件原審判決は、

(一) まず、第一段で、

判決理由の約三分の二の文言を用いて、原告並びに被告が殊更に全く弁論しなかったところの、そして、全く誤ったところの

(ⅰ) 副筋の機能が示されていない。(判決二四丁裏二行目乃至四行目の記載、および同二六丁表末尾二行の記載)

(ⅱ) 「本件特許発明において、副筋が技術的意味を全く有していない」

(二七丁表八行目乃至一〇行目)

なる新見解を表わし、この原審判決理由での、原審判決独自の誤った新見解をもって、

(ⅲ) 「本件発明中の重要な構成要件である隣接並設の複数の逆V字状鉄筋が夫々独立したものである。」

(二八丁表二行目乃至八行目)と誤って独断したものである。

(二) 次に、第二段で、相違点1について、

(ⅳ) 「そうすると、第二引用例記載のものを本件発明の先行技術とし、前記相違点1を判断するに当たっては、

第二引用例記載のものの一列だけの逆V字状鉄筋について、その波形鉄筋の下端部を固着(接合)連結することの困難性のみを問題とすれば足りる。」

と判決され、

(ⅴ) 「このことを前提として、第二引用例記載のものに第一引用例記載のものを適用することの因難性について検討すると、

第一引用例には、前記のとおり、一列の逆V字形鉄筋を有していて、その波形鉄筋の下端部を下弦主筋に接合したものが示されているから、

(ⅵ) 第二引用例記載のものにおいて、各ウエブ斜材対(本件発明の「逆V字形鉄筋2」に相当する。)の波形鉄筋の下端部を下弦主筋である二重棒に接合するようにすることは格別困難なことではないというべきである。」

と判決されたものである。(二八丁表九行目乃至同裏末行の記載)

(三) 次に第三段で、相違点2について、

軽量化は共通の課題である。(三五丁裏三行目乃至五行目の記載)

そうすれば

(ⅵ) 「波形鉄筋の下端部と下弦主筋を固着(接合)した逆V字形鉄筋にコンクリートを打設してコンクリートスラブを作製するに当たって、コンクリートスラブの軽量化を図るために、第三引用例記載のものを第二引用例記載のスラブに適用して、逆V字形鉄筋の間に、軽量固形物を埋設するようなことは、当業者が容易になし得たことといえる。」

と判決され、次に

(ⅶ) 「審決は、第三引用例については、そこに記載された鉄筋列の構造部分を引用したのではなく、所定間隔をおいて鉄筋列を並列配置したコンクリートスラブにおいて、スラブの軽量化を図るために、該鉄筋列の間に軽量固形物(硬質ブラスチック発泡体丸棒)を埋設した状態でコンクリートを打設するという技術手段を適用したものであることは前記審決の理由の要点(請求の原因三)から明らかであるから、

(ⅸ) 両者の鉄筋群(列)の具体的形状及びその作用の異同を主張しても無意味である。

(ⅹ) また、原告は、第三引用例記載のものを第二引用例記載のスラブに適用して、第二引用例記載のものの波形鉄筋の下端部が固着構造でないことと、埋設ブラスチック発泡体の存在する箇所のコンクリートが削除され下端部が係止である波形鉄筋の外側に位置するコンクリートが応力で破壊されやすいこととによって実用に供し得ない構成となる旨主張する。

(ⅹⅰ) しかしながら、審決は、相違点2において第二引用例記載のものに単純に第三引用例記載のものを適用したのでなく、第二引用例記載のものにおける複数列の逆V字形鉄筋について、その波形鉄筋の下端部を下弦主筋に固着(接合)したものを逆V字形鉄筋列とし、これにコンクリートを打設してコンクリートスラブを作製するに当たり、コンクリートスラブの軽量化を図るために、第三引用例記載の鉄筋列の間に軽量固形物を埋設した状態でコンクリートを打設するという技術手段を適用したものであること前述のとおりでみるから、原告の前記主張はその前提において誤っており採用することができない。」

と判決されものである。

(四) 最後に、第四段で記したところの

「本件発明の奏する前記(1)ないし(4)の作用効果は、いずれも第一引用例ないし第三引用例記載のものから通常予測できる範囲内のものにすぎないというべきである。」

と判断され

(五) 以て、

「以上のとおりであるから、審決の相違点1及び相違点2についての認定、判断に誤りはなく、本件発明は第一引用例ないし第三引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるから、審決に原告の主張する違法はない。

よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。」

と判決されたものである。

二 次に本判決がその結論に言及する為に理由を累々述べられているので、それぞれの判決理由の審理不尽、理由不備、理由齟齬を後段で明らかにする為に、判決理由の筋書の要点を箇条書にすると次のとおりである。

〔二〕 請求の原因の項に記した本件発明の要旨

主筋1の長手方向に沿って波形に連続し、かつ、主筋1の長手方向に対して直角な縦断面視において逆V字形の鉄筋2を副筋3の長手方向に適当間隔を隔てて配置し、それらの下端部を主筋1又はこれと副筋3に接合するとともに、副筋3の長手方向で隣接する逆V字形鉄筋2、2間に、軽量固形物4を埋設する又は空間4Aを形成する状態にコンクリート5を打設して作製してあることを特徴とするコンクリートスラブ。(別紙図面一参照)

〔三〕 審決の理由の要点

1 本件発明の要旨は前記記載のとおりである。

2 これに対し、昭和四三年特許出願公告第七二七四号公報(以下「第一引用例」という。)には、下部弦材がコンクリート脚部によって完全に包まれており、上部弦材が露出していてその箇所にさらにコンクリートを打設してスラブを完成するようにした格子梁において、下部弦材及び上部弦材にその上下縁を溶接するトラス斜材を形成する湾曲部材がその一方の端部にのみ下部弦材平面に延びている延長部を有することによって非対称形につくられており、そして該延長部が梁の長手方向から見て互い違いになるように該湾曲部材が配置されており、スラブを形成する場合には複数個の当該梁を並列配置させて使用する格子梁(別紙図面二参照)が記載され、昭和四五年特許出願公告第一六〇三〇号公報(以下「第二引用例」という。)には、間に連結横材を溶接した網目の縦方向の二重棒及び網目方向に直角の個別棒よりなる下弦梯子格子補強網に、一つの圧縮上弦材に溶接などによって結合されたウェブ斜材対の下端部が内方に屈曲されているトラス梁を、前記屈曲部を下弦梯子格子補強網の二重棒に係合することにより連結し、これら下弦梯子格子補強網の二重棒、トラス梁及び圧縮上弦材の列は間隔をおいて並列して設けられており、下弦梯子格子補強網の部分はブレキャストコンクリート中に埋設され、上弦材の部分は現場打コンクリートを打設して得るスラブ(別紙図面三参照)が記載され、昭和四七年特許出願公告第四四七〇三号公報(以下「第三引用例」という。)には、バネル上面に所定間隔をあけてあらかじめセメントモルタル製のセバータを設置しておき、セバレータ上に硬質ブラスチック発泡体丸棒を設置し、丸棒と丸棒との間に鉄筋受台を配置し、これにスラブの支持に必要な上弦材、下弦材及び繋ぎ筋よりなる鉄筋を配設しておいて、コンクリートを打設した軽量断熱スラブ(別紙図面四参照)が記載されているものと認める。

3 そこで、本件発明と第二引用例記載のものとを対比してみると、本件発明における「主筋」「逆V字状の鉄筋」「副筋」は、それぞれ第二引用例記載のものの「圧縮上弦材及び二重棒」「ウェブ斜材対」「個別棒」に相当すると認められるから、両者は、次のような一致点及び相違点を有するものと認められる。

一致点

主筋の長手方向に沿って波形に連続し、主筋の長手方向に対して直角な縦断面視において逆V字形の鉄筋を副筋の長手方向に適当間隔を隔てて配置し、それらの下端部を主筋に連結した状態でコンクリートを打設して作製したコンクリートスラブ。

相違点1

主筋と逆V字形の鉄筋との連結を、本件発明では接合するものとしたのに対し、第二引用例記載のものでは係合するものとした点。

相違点2

本件発明では副筋の長手方向で隣接する逆V字形鉄筋間に軽量固形物を埋設する又は空間を形成する状態にコンクリートを打設したのに対し、第二引用例記載のものでは逆V字形鉄筋間に軽量固形物を介在させたり空間を形成したりすることなくコンクリートを打設した点。

次に前記相違点について検討する。

相違点1について、この種のスラブ構造において、トラス斜材(本件発明における「逆V字形の鉄筋」が相当する。)の下縁を下弦主筋に溶接等により接合することは、第一引用例に記載されているところであり、第一引用例記載のものの接合技術を第二引用例記載のもとに適用しても、それによって予測できないような作用効果を奏するものとは認められず、相違点1において本件発明のようにすることは、当業者において容易になし得た事柄であると認められる。

また、相違点2について、スラブの一定方向に所定間隔をおいて並列して上下弦材及び繋ぎ筋より構成される鉄筋列を設け、相互の鉄筋列の間に軽量発泡体丸棒を同方向に設け、コンクリートを打設したスラブは第三引用例に記載されており、本件発明の逆V字形鉄筋、主筋等で構成される鉄筋群も、前記鉄筋列に相当するものと認められ、第三引用例記載のものを第二引用例記載のスラブに適用しても、それによって予測できないような作用効果を奏するものとは認められず、相違点2において本件発明のようにすることは、当業者において適宜容易になし得た事柄と認められる。

4 したがって、本件発明は、第一ないし第三引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものに帰し、本件特許は、特許法第二九条第二項の規定に違反してなされたものであるので、同法第一二三条第一項の規定により無効にすべきものである。

〔四〕 審決の取消事由

第一ないし第三引用例記載の技術内容が審決認定のとおり(だだし、第三引用例の鉄筋の配設の点を除く)であること、本件発明と第二引用例記載のものとの一致点及び相違点が審決認定のとおりであることは認めるが、審決は、右相違点1及び相違点2についての認定、判断を誤った結果、本件発明は第一ないし第三引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたとしたものであるから、違法であって、取り消されるべきである。

1 本件発明の技術的課題(目的)・構成・作用効果

(一) 本件発明は、コンクリートスラブの軽量化を図りながら、スラブとして要求される剪断、圧縮などの機械的強度に優れ、しかも部材相互間の連梁性に優れてスラブ全体を薄くて軽い割に非常に頑丈なものとすること(本件発明の出願公告公報(以下「本件公報」という。)第一欄第三二行ないし第三七行)を目的とするものである。

(二) 前記技術的課題解決のために採用された本件発明の技術手段は、特許請求の範囲記載のとおり、コンクリートスラブにおいて、Aa1「主筋1の長手方向に沿って波形に連続し、かつ、主筋1の長手方向に対して直角な縦断面視において逆V字形の鉄筋2を副筋3の長手方向に適当間隔を隔てて配置し」た構成を用いながら、a2「それらの下端部を主筋1又はこれと副筋3に接合する」ことと、B「副筋3の長手方向で隣接する逆V字形鉄筋2、2間に、軽量固形物4を埋設する又は空間4Aを形成する状態にコンクリート5を打設して作製してあること」という構成の組合せから成るものである。右a2における「それらの下端部」とは、主筋1の長手方向に沿って波形に連続した逆V字形鉄筋2、すなわち波形鉄筋の各下端部を意味する。

(三) 本件発明は前記二の構成により次の作用効果を奏するものである。

(1) 軽量固形物4を埋設する又は空間4Aを形成することと、波形鉄筋の下端部を主筋1又は副筋3とに接合して成る固着構造を持った逆V字形鉄筋2の採用により、別紙図面一第6図(ロ)に示された従来の鉄筋形式を用いたコンクリートスラブよりも圧縮側の鉄筋量を減少して軽量化を図り得る(同第六欄第三九行ないし第四四行)。

(2) 前記軽量化により構造が弱体化することを防ぐために、前記a1の構成において、波形鉄筋の下端部を接合する固着構造を持った逆V字形鉄筋2を用いることによって、〈1〉部材相互の固着連結による良好な連梁性を発揮し、スラブとして要求される剪断、圧縮などの機械的強度を充分に確保でき(同第七欄第三行ないし第二〇行)、〈2〉梁に対して上方からの荷重の曲げモーメントによってもたらされる側面図四五度方向の剪断力に対しては主筋1方向に連続する逆V字形鉄筋2によって対抗し得るとともに、〈3〉主筋1方向に対して直角な縦断面視における逆V字形鉄筋2によって梁の両側面側への破壊を防止し得る(〈2〉及び〈3〉につき、本件発明の特許法第六四条の規定による補正を記載した公報(以下「本件補正

公報」という。)下から第五行ないし第一行)ものであって、〈4〉これによって全体として、薄くて軽い割に、非常に頑丈なものになし得る(本件公報第八欄第一行、第二行)。

(四) 被告は、逆V字形鉄筋を使用したスラブの強度に関する研究は、本件出願前から行われており、本件公報の発明の詳細な説明に記載されている実験と同様の内容の実験結果が発表されている旨主張するが、被告援用の乙第一号証記載の実験結果は、逆V字形鉄筋梁の一列だけを有し、第一引用例記載のものと実質的に同一の構造についての強度実験にすぎず、本件発明の前記A、Bの構成から成る構造がいかに負荷に耐え得るかという、本件公報に記載された実験結果を示すものではない。

2 相違点1についての認定、判断の誤り

(一) 第二引用例記載のものは、逆V字形鉄筋(ウェブ斜材対)を複数列有し、波形鉄筋の下端部を下弦主筋(二重棒)に係止する構成のものであるのに対し、第一引用例記載のものは、逆V字形鉄筋(トラス斜材)を一列だけ有しているにすぎず、構造が簡単であるが故に波形鉄筋の下端部を下弦主筋(下部弦材)に固着した構成のものであって、両者は連結の構造及び作用の点で全く異質な別種類のものであるのに、審決が両者を「この種のスラブ構造」として同一種類のスラブ構造と認定したのは誤りである。

また、第二引用例には、「上弦材、下弦材および中間のジグザグ状のウェブ材より成るこれらの梁の普通の形状は、この場合不都合な事態を生ぜしめた。プレキャスト部分の補強材が例えば溶接金網より作られている限り、この型式の梁は単に、金網の上に置かれてこれにワイヤで取付けられうるにすぎない。」(第二欄第三三行ないし末行)と記載され、波形鉄筋の下端部を固着することは不都合であることが明記されているから、当業者が第二引用例記載の技術を用いるに当たって、波形鉄筋の下端部を固着する構成を採用することはあり得ない。

これに対し、本件発明は、前記1一記載の薄くて軽い割に非常に頑丈なスラブを得る目的のために、軽量固形物4の埋設又は空間4Aを形成しながち、なお強度の劣化を防ぐために、第二引用例に示された本件出願前の技術常識に反してあえて波形鉄筋の下端を主筋に接合する、すなわち固着する構成を採用し、その結果、前記1三記載の作用効果を奏するものである。

したがって、審決が、相違点1について、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとが同一のスラブ構造であるとして、第一引用例に記載されたトラス斜材の下縁を下弦主筋に溶接等により接合する技術を第二引用例記載のものに適用しても、予測できないような作用効果を奏するものでなく、相違点1について本件発明のようにすることは当業者において容易になし得たものとした認定、判断は誤りである。

(二) 被告は、複数の逆V字形鉄筋を主筋等の補強材に固着する技術は、既に第二引用例に示されている旨主張する。

しかしながら、第二引用例には、骨組型構造の梁の複数本が平行に間隔をおいて配置される場合、上弦材と下弦材と中間のジグザグ状のウェブ材より成る梁の普通の形状は、不都合であるから、プレキャスト部分の補強材、すなわち、下部弦材が溶接金網より作られている限り、この型式の梁は単に金網の上に置かれてこれにワイヤで取付けられ得るにすぎない(第二欄第二三行ないし第三八行)趣旨の記載があるにすぎず、「ワイヤで取付けられうるにすぎない」との記載は「ワイヤで取付ける方法以外では用い得ない」ことを示すことが明らかである。そして、ほかに第二引用例には接合の構造を用いる技術は全く記載されてなく、その示唆すら存しない。

また、被告は、本件出願前、複数列の逆V字形鉄筋を主筋に接合させて使用する技術は当業者において広く知られている旨主張する。

しかしながら、被告が周知技術として主張する実験結果の報告書(乙第二、第三号証)は、ウェブ斜材対を持たない、全部現場打ちコンクリートスラブに関する強度実験又は剪断補強効果を検するための実験結果の報告にすぎない。

相違点1については、コンクリートスラブ内の鉄筋を溶接することが一般的に容易に推考し得たか否かが問題ではなく、本件出願時の技術常識に反して、下弦梯子格子補強網と逆V字形ジグザク状ウェブ斜材対の下端との連絡には係止しか用い得ないとする第二引用例記載の係止構造の代わりに、非対称形に作ってのみ使用される第一引用例記載の接合技術を適用することが容易であったか否かが問題なのである。

第二引用例記載のものは、逆V字形ジグザグ状ウェブ斜材の下端部を下弦梯子格子補強網に対して係合構造を用いることによって逆方向アーチ状に湾曲させやすくしたものであり、また第一引用例記載のものは、逆V字形ジグザグ状トラス斜材の脚部と下部弦材1とが溶接により連絡されているが、コンクリート脚部に横方向の連続する副筋を有せしめないことによって、すなわち下弦梯子格子補強綱を有せしめないことによって、逆方向アーチ状に湾曲させやすい状態に構成されている(第一頁右欄第三三行ないし第四〇行)。

したがって、本件出願前、本件発明のようなオムニア版の鉄筋骨組、すなわち、その下半部があらかじめコンクリートに埋め込まれ、現場に取り付けられた後にコンクリートを現場打ちするためのコンクリートスラブ用組立鉄筋梁は、逆方向アーチ形に湾曲させやすく構成することが当業界における技術常識であったから、当業者にとって第二引用例記載の係合に代えて接合を適用することは、右技術常識に反することであって、当業者にとって容易になし得ることではない。

3 相違点2についての認定、判断の誤り

本件発明及び第二引用例記載のものの逆V字形鉄筋は、第一及び第二引用例の記載からも明らかなように、その下半部をあらかじめコンクリートに埋め込まれ、かかる状態で現場に吊り上げられすいように逆V字形鉄筋が用いられ、現場に取り付けられた後に、上半部にコンクリートを現場打ちされる技術として発達してきたスラブの組立鉄筋梁であっで、その一つの鉄筋列が一対の波形鉄筋として逆V字形をなす特殊な形と作用とを有している。この鉄筋群は、その両脇のコンクリート内に空間4、4を形成すると別紙図面(一)第6図(イ)図のような断面構造になるので、両側部のコンクリートが常識上応力によって破壊されやすい傾向を有していると考えられてきたものである。

これに対し、第三引用例記載のものの鉄筋列は、その上に全コンクリートを一挙に現場打ちされるものであって、この鉄筋列は、その両脇のコンクリート内に空間4、4が設けられると、別紙図面一第6図(ロ)図の鉄筋配置となり、鉄筋が梁側面から近い位置にあって、多くのコンクリートをアバラ鉄筋内に抱き込むので、強度上有利であるから、空間4、4を設けても、この点では弱くならない有利な構造である。

したがって、本件発明及び第二引用例記載のものの鉄筋群と、第三引用例記載のものの鉄筋列とは、全く異質な形を有し、作用の仕方も全く異質のものであるから、前者の鉄筋群は校舎の鉄筋列に相当するものではないのに、審決が本件発明の鉄筋群は第三引用例記載の鉄筋列に相当するとした認定は誤りである。

また、第三引用例記載のものを第二引用例記載のスラブに適用したものは、第二引用例記載のものの波形鉄筋の下端部が固着構造でないことと、埋設プラスチック発泡体の存在する箇所のコンクリートが削除され下端部が係止である波形鉄筋の外側に位置するコンクリートが応力で破壊されやすいこととによって強度不足となり、実用に供し得ない構成となる。

したがって、審決が、第三引用例記載のものを第二引用例記載のスラブに適用しても、予測できないような作用効果を奏するものとは認められず、相違点2において本件発明のようにすることは、当業者において適宜容易になし得たものとした認定、判断は誤りである。

〔第三〕 請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三の事実は認める。

二  同四は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

1 本件発明の技術的課題(目的)・構成・作用効果について

本件発明の技術的課題(目的)・構成が請求の原因四1(一)及び(二)記載のとおりであることは認める。

しかしながら、本件発明の奏する作用効果については、本件発明は、第一ないし第三引用例記載のものの奏する個別的な作用効果を合わせ持つものにすぎず、本件発明独特の作用効果を見いだすことはできない。

原告が主張する「圧縮側の鉄筋量を減少して軽量化を図り得る」との作用効果は、第一引用例記載のものの奏する作用効果と同じであり、軽量固形物の埋設は第三引用例記載のものと同一であって、両者を結合したとしても予測できないような作用効果は認められない。

また、「連梁性の発揮による機械的強度の確保」という作用効果は、第一及び第二引用例記載のものの奏する作用効果と同じであり、「四五度方向の剪断力に対向」、「梁の両側面側への破壊防止」という作用効果も第一及び第二引用例記載のものの奏する作用効果と同じであって、いずれも予測できない本件発明独特の作用効果ではない。

2 相違点1について

第一引用例及び第二引用例記載の技術内容は審決認定のとおりである。

原告は、第二引用例記載のものと、第一引用例記載のものとはスラブ構造を異にするものであるのに、審決が両者を「この種のスラブ構造」として同一種類のスラブ構造と認定したのは誤りである旨主張する。

しかしながら、審決における「この種のスラブ構造」とは、その前後の文言から判断して、スラブの構造に関する種別を述ベているものであり、少なくとも、本件発明及び第二引用例に示されているごとき種類のスラブ構造全般を指しているものと解すべきである。

この点に関し、原告は、第二引用例記載のものと第一引用例記載のものとの逆V字形鉄筋の違いを述べ、その違いをもって同一種類のスラブ構造と認定したことは誤りである旨主張するが、審決は、相違点1においてこのよつな逆V字形鉄筋の違いを前提とし、その違いのあるスラブ構造間において、その違いが進歩性を認めるに足りるものか否かを問題にしているのであり、逆V字形鉄筋の構造において第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとが同一であると認定しているのではないから、審決に原告主張のような認定の誤りはない。

また、原告は、第二引用例には、波形鉄筋の下端部を固着することは不都合である旨記載されているから、当業者が第二引用例記載の技術を用いるに当たって、このような構成を採用することはあり得ないのに、本件発明は第二引用例に示された本件出願前の技術常識に反して、あえて波形鉄筋の下端部を固着する構成を採用し、その結果、原告主張の作用効果を奏するものである旨主張する。

第二引用例に、波形鉄筋の下端部を固着することは不都合である趣旨の記載があることは認める。

しかしながら、このような不都合は、第二引用例記載のものの発明者がその出願時に考えたことにすぎず、また、第二引用例には、波形鉄筋の下端部を溶接金網に対してワイヤをもってではあるが接合する技術及び下弦材間にメッシュの長手棒を導入する技術が示されている(第二欄第三五行ないし第三欄第七行参照)。

しかも、このような技術は、前者は接合が弱い点、後者は時間のかかる仕事である点に不都合がある旨記載されているが、それゆえ当業者において使用されなかったとはどこにも記載されていない。むしろ、従来、波形鉄筋の下端部を補強材に接合することが、たとえ不都合であっても第二引用例に示されていた事実こそ注目すべきである。

このように、複数の逆V字形鉄筋を主筋等の補強材に固着する技術は、既に第二引用例に示されており、

当業者にとって、第二引用例記載のものの逆V字形鉄筋を第一引用例記載のもののごとく溶接等によって接合することは、通常行われている単なる設計変更程度のことにすぎない。そして溶接等によって接合することにより結合状態が強固になるという作用効果は、本件発明も第一引用例記載のものも何ら異ならない。

したがって、審決の相違点1についての認定、判断に誤りはない。

3 相違点2について

原告は、本件発明及び第二引用例記載のものの鉄筋群は第三引用例記載の鉄筋列とは全く異質な形を有し、作用の仕方も全く異質なものであるのに、審決が本件発明の鉄筋群が第三引用例記載の鉄筋列に相当すると認定したのは誤りである旨主張する。

しかしながら、本件発明も第三引用例記載のものも、スラブの一定方向に間隔をおいて鉄筋列を設け、相互の鉄筋列間に軽量発泡体丸棒を設けてコンクリートを打設したスラブである意味においては同じであり、審決はかかるスラブ構造において第三引用例記載の鉄筋列に本件発明の逆V字形鉄筋が相当すると認定しているにすぎず、両者が同一のものであると認定しているのではないから、審決の認定に原告主張の誤りはない。

また、原告は、第三引用例記載のものを第二引用例記載のスラブに適用しても、実用に供し得ない構成となる旨主張する。

しかしながら、審決は、本件発明と第二引用例記載のものとは相違点2について判断するに当たり、第二引用例記載の鉄筋列を逆V字形鉄筋と表現しており、このことは、第二引用例記載のものに第一引用例記載の接合技術を適用したことを前提とし、その上で第三引用例記載のように軽量固形物を鉄筋列間に介在させたとしても、それによって予測できないような作用効果を奏するものとは認められないとしているものであって、審決の認定に誤りはない。

(理由)

〔一〕本件発明の目的、構成について、

1 本件発明の技術的課題(目的)、構成が次のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(一) 本件発明は、コンクリートスラブの軽量化を図りながら、スラブとして要求される剪断、圧縮などの機械的強度に優れ、しかも部材相互間の連梁性に優れてスラブ全体を薄くて軽い割に非常に頑丈なものとすることを目的とするものである。

(二) 前記技術的課題解決のため採用された本件発明の技術手段は、特許請求の範囲記載のとおり、コンクリートスラブにおいて、A(a1)「主筋1の長手方向向に沿って波形に連続し、かつ、主筋1の長手方向に対して直角な縦断面視において逆V字形の鉄筋2を副筋3の長手方向に適当間隔を隔てて配置し」た構成を用いながら、(a2)「それらの下端部を主筋1又はこれと副筋3に接合する」ことと、B「副筋3の長手方向で隣接する逆V字形鉄筋2、2間に、軽量固形物4を埋設する又は空間4Aを形成する状態にコンクリート5を打設して作製してあること」という構成の組合せから成るものである。右(a2)における「それらの下端部」とは、主筋1の長手方向に沿って波形に連続した逆V字形鉄筋2、すなわち波形鉄筋の各下端部を意味する。

〔二〕 相違点1について、

1 原告は、本件発明と第二引用例記載のものとの相違点1、すなわち、「主筋と逆V字形の鉄筋との連絡を、本件発明では接合するものとしたのに対し、第二引用例記載のものでは係合するものとした点」についての審決の認定、判断は誤りである旨主張するので、検する。

本件発明における副筋3の技術的意義について検討すると、成立に争いのない甲第二号証の一、二によれば、本件明細書には、副筋3は主筋1の長手方向に対して直角方向に交差する状態に配設していること、及び複数列(本)の逆V字形鉄筋2が副筋3の長手方向に適当間隔を隔てて並列配置するとともに隣接する逆V字形鉄筋2、2の間に軽量固形物4を埋設するか、又は空間4Aを形成する状態にコンクリートを打設すること、という逆V字形鉄筋2と副筋3との間の配設関係については示されているが、複数本並列配置した逆V字形鉄筋2と副筋3との間の機能上の関係(技術的意味)については何も示されていないことが明らかである(このことは、軽量固形物4又は空間4Aとの関係についても同様である。)。

第6図(イ)に示される試験体は、コンクリースラブから梁部分を取り出したもの(主筋1に逆V字形鉄筋2が接合されたもの、すなわち一列の逆V字形鉄筋2にコンクリートを打設したもの)に相当し、

第8図に示される試験体は、(試験体全体が示されていないが)一列の梁部分に隣接して軽量固形物4を埋設するか、空間4Aを形成するかしてあるものであって、

いずれも複数列の逆V字形鉄筋を並列配置したものではない。また、

前掲甲第二号証の一、二によれば、定着実験については、その試験体が明示されていないことが認められ、本件明細書には定着事件についてはこれと異なった試験体で行ったことが明示されていないことからみて、定着実験には、梁部分に相当するもの(一列の逆V字形鉄筋2にコンクリートを打設したもの)が試験体として用いられたものと推認できる。

したがって、本件明細書に記載された実験においては、その試験体として、複数列の逆V字形鉄筋を並列配置した構成ものを用いていない。

そして、前掲甲第二号証の一、二によれば、本件明細書には、右実験結果に基づいて、「逆V字形鉄筋を用いた本発明のコンクリートスラブは、在来鉄筋を用いたコンクリートスラブよりも圧縮側の鉄筋量を減少して軽量化を図り得るものであり乍ら、在来方式のコンクリートスラブと同等の性能を発揮することができるとともに、床接合部実験・梁の定着実験においても十分な安全性を得ることができる。」(本件公報第六欄第三九行ないし第四欄第二行)と記載されているが、ほかに副筋の機能について特に記載されていないことが認められる。

以上の認定事実によれば、本件発明においては、逆V字形鉄筋2を副筋3の長手方向に適当に間隔を隔てて配置したものであるが、副筋3については、構造上各逆V字形鉄筋2と接合関係にないものをもその構成とするものであり、

したがって、副筋3を用いて複数列の各逆V字形鉄筋2に機械的強度をもたせたものとはいえないから、

本件発明において、特に波形鉄筋の各下端部が主筋1だけに接合したものについては、副筋3と逆V字形鉄筋2との間に機械的強度上の関連がないばかりでなく、

逆V字形鉄筋2、2相互間においても副筋3を用いて機械的強度をもたせたものではないといわざるを得ない。

また、本件発明において副筋3を配設したのは、複数列の逆V字形鉄筋2、2の構成をとったことにより幅広となったコンクリートスラブについて幅方向の機械的強度をもたせるためであると解される。

そして、本件発明が複数列の逆V字形鉄筋2、2を並列配置したのは、逆V字形鉄筋2、2の間に軽量固形物4を埋設するか又は空間4Aを形成する構成を採用するに当たって、少なくとも隣接する二列の逆V字形鉄筋2、2を具備することが不可欠であったためであると推認され、

特に逆V字形鉄筋2の機械的強度上の配慮からなされたものであるとは解されない。

そうすると、本件発明において、副筋3を設けた点は、本件発明の目的、作用効果との関係において技術的意義を有するのではなく、

複数列の逆V字形鉄筋2、2を並列配置した構成を採用したことにより幅広となったコンクリートスラブについてその幅方向の機械的強度をもたせたことにのみ技術的意義を有すると解さざるを得ない。

(一) 第一引用例及び第二引用例記載の技術内容が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実によれば、第一引用例及び第二引用例に記載されたものは、いずれも建物用資材のコンクリートスラブとして本件発明のコンクリートスラブと同一の技術分野に属するものであり、また、第一引用例には、一列のトラス斜材(本件発明の「逆V字形鉄筋2」に相当する。上告人注:本発明中の逆V字形鉄筋は第一引用例のような非対称形下弦材にではなく対称形の下弦梯子格子状補強網に固定されているものである。)の下端を下弦主筋である下部弦材に溶接等により接合した技術が記載されていることが認められる。

ところで、本件発明は、前記(一)のとおり、複数列の逆V字形鉄筋2、2を並列配置したものではあるが、各逆V字形鉄筋2、2相互については構造上の関連がなく、また、

(逆V字形鉄筋2を構成する)波形鉄筋の各下端部を副筋3に接合しないものをもその構成とするから、少なくともこの構成の各逆V字形鉄筋2、2はそれぞれ独立したものである。

そうすると、第二引用例記載のものを本件発明の先行技術とし、前記相違点1を判断するに当たっては、第二引用例記載のものの一例だけの逆V字状鉄筋について、その波形鉄筋の下端部を固着(接合)連結することの困難性のみを問題とすれば足りる。

このことを前提として、第二引用例記載のものに第一引用例記載のものを適用することの困難性について検討すると、第一引用例には、前記のとおり、一列の逆V字形鉄筋を有していて、その波形鉄筋の下端部を下弦主筋に接合したものが示されているから、

第二引用例記載のものにおいて、各ウエブ斜材対(本件発明の「逆V字形鉄筋2」に相当する。)の波形鉄筋の下端部を下弦主筋である二重棒に接合するようにすることは格別困難なことではないというべきである。

原告は、第二引用例記載のものは、逆V字形鉄筋を複数列有し、波形鉄筋の下端部を下弦主筋に係止する構成のものであるのに対し、

第一引用例記載のものは逆V字形鉄筋を一列だけ有しているにすぎず、構造が簡単であるが故に波形鉄筋の下端部を下弦主筋に固着した構成のものであって、

両者は連結の構造及び作用の点で全く異質な別種類のものであるのに、審決が両者を「この種のスラブ構造」として同一種類のスラブ構造と認定したのは誤りである旨主張する。

しかしながら、第一引用例記載のものの固着(接合)した構造も、第二引用例記載のものの結合した構造も、共に波形鉄筋の下端部を下弦主筋に連結した構造である点では異なるところがないから、両者は同種の技術手段に属するというべきであり、原告主張の連結構造の相違をもって別種類の構造ということはできない。

したがって、審決が前記相違点1について判断するに当たり、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとを含め、「この種のスラブ構造」と認定したことに誤りはない。

原告は、第二引用例には、波形鉄筋の下端部を固着することは不都合であることが明記されているから、当業者が第二引用例記載の技術を用いるに当たって、波形鉄筋の下端部を固着する構成を採用することはあり得ない、本件発明は第二引用例に示された本件出願当時の技術常識に反して右のような固着構造を採用したものである旨主張する。

第二引用例に、波形鉄筋の下端部を固着することは不都合であることが明記されていることは、当事者間に争いがない。

しかしなから、第二引用例のこの点に関する記載事項を具体的に検討すると、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、あらかじめ生産されたコンクリートスラブを現場に運搬し、このスラブにさらにコンクリートが現場打ちされた場合、既に硬化したプレキャスト部分のコンクリートと現場打ちコンクリートとが一体式構造を形成できないので、両コンクリート層をより良く付着せしめる構造上の配慮が必要であり、そのために梁が骨組型構造の形で使用され互いに平行に間隔をおいて配置されるが、「上弦材、下弦材および中間のジグザグ状のウエブ材より成るこれらの梁の普通の形状は、この場合不都合な事態を生ぜしめた。プレキャスト部分の補強材が例えば溶接金網より作られている限り、この型式の梁は単に、金網の上に置かれてこれにワイヤで取付けられうるにすぎない。トラス荷重から生じる鉛直力成分は従って、このような弱いワイヤ接合点によってしか受取られない。」(第二欄第三三行ないし第三欄第二行)と記載されていることが認められ、

この記載事項からみると、第二引用例は、単にワイヤでの取付けについてそれが不都合であると述べているにすぎず、それ以上に積極的に接合の欠点をあげて不都合といっているのではない。

そして、本件出願当時のコンクリートスラブ製造の技術分野における技術水準についてみるに、前掲甲第四号証及びいずれも成立に争いのない甲第三号証並びに乙第二、第三号証によれば、コンクリート内に埋設する鉄筋相互を接続する技術としては、接合と係合のいずれかが用いられていたことが認められ、また、成立に争いのない乙第四号証によれば、昭和四九年特許出願公告第三〇九二七号公報には、壁体の構造についてであるが、プレキャストコンクリート壁体に複数の三角分辺三次元ジグザグ・ラチス部材14(本件発明の「逆V字形鉄筋2」に相当する。)を平行配置し、該部材とたて材13、13a(本件発明の「主筋」に相当する。)とを、結んだ構成(第五欄第三五行ないし第三八行)が示されており、この構成をそのFig3を参照して検討すると、逆V字形鉄筋は主筋に接合しているものと認められる。しかも、第一引用例には、本件発明のようなコンクリートスラブにおいて、逆V字形鉄筋の下端を下弦主筋に溶接等により接合した技術が示されていることは、前述のとおりである。

そうであれば、第二引用例に前記認定の記載かあっても、また、第二引用例には、ほかに接合の構造を用いる技術について記載も示唆も存しないとしても、

第一引用例に記載された前記接合構造を第二引用例記載のものに適用してみようと試みることは、さして困難なことではない。

また、原告は、相違点1については、下弦梯子格子補強網と逆V字形ジグザグ状ウエブ斜材の下端との連結には係止しか用い得ないとする第二引用例記載の係止構造の代わりに、非対称形に作ってのみ使用される第一引用例記載の接合技術を適用することが容易であったか否かが問題である旨主張する。

しかしながら、前掲甲第四号証によれば、第二引用例には、「上弦材および下弦材に共に剛節的に取付けられたウエブ斜材を有する普通の種類の梁では実際上、個々の要求を満たすように梁をアーチ状に彎曲せしめることは不可能である」(第三欄第四〇行ないし第四三行)と記載されていることが認められるから、第二引用例は、ウエブ斜材が上弦及び下弦材に剛節的(第二引用例にいう「剛節的」とは、その記載内容からみて「接合」の意味と解される。)に取付けられた場合、梁が曲げにくく、個々の要求を満たすことができないと述べているだけであって、ウエブ斜材が下弦材に剛節的に取付けることはできず、係合しか行い得ないと述べているのではない。

また、前掲甲第三号証によれば、第一引用例記載のものにおける湾曲部材4は非対称形に作られる(第一頁右欄第二〇行ないし第二七行)が、このことと接合とは何ら関係がないことが認められるから、非対称形に作られたものでなければ接合できないものではない。したがって、原告の前記主張は理由がない。

さらに、原告は、第一引用例及び第二引用例の記載から明らかなように、本件出願前、本件発明のようなオムニア版の鉄筋骨組は逆方向アーチ形に湾曲させやすく構成することが当業界における技術常識であったから、当業者にとって第二引用例記載の係合に代えて接合を適用することは、右技術常識に反することであって、当業者にとって容易になし得ることではない旨主張する。

しかしながら、前掲甲第三号証によれば、第一引用例記載のものは、副筋を有しないものであることが認められるが、前記(一)認定のとおり、副筋はスラブの幅方向にいれられるべきものであるから、逆方向アーチ状に湾曲させやすいかどうかということは副筋を有しないことと無関係である。

また、前掲甲第三号証によれば、原告が援用する第一引用例の第一頁右欄第三三行ないし第四〇行には、第一引用例記載のものが逆方町アーチ状への湾曲が容易であるという趣旨の記載は存しないことが認められる。

一方、前掲甲第四号証によれば、第二引用例記載のものは逆方向アーチ状に湾曲しやすくしてあることが認められるが、

そうだからといって、原告主張のオムニア版の鉄筋構造のものが逆方向アーチ状に曲げやすいものでなければ使用できないとする技術的理由はみいだせない。

したがって、原告の前記主張は採用し得ない。

((二)欠)

〔三〕 相違点2について、

次に、原告は、本件発明と第二引用例記載のものとの相違点2、すなわち、「本件発明では副筋の長手方向で隣接する逆V字形鉄筋間に軽量固形物を埋設する又は空間を形成する状態にコンクリートを打設したのに対し、第二引用例記載のものでは逆V字形鉄筋間に軽量固形物を介在させたり空間を形成したりすることなくコンクリートを打設した点」についての審決の認定、判断は誤りである旨主張する。

ところで、第二引用例記載の並列配置した複数列の逆V字形鉄筋において、該逆V字形鉄筋を構成する波形鉄筋の下端部を、下弦主筋に固着(接合)するに想到することが当業者にとって格別困難でないことは前述のとおりである。

また、前掲甲第五号証によれば、第三引用例記載のものは、コンクリートスラブを軽量で運搬容易とすることを技術的課題の一つとすること(第二欄第四行ないし第九行)が認められ、このように、コンクリートスラブにおいて、より軽量であることが望ましいことは各種コンクリートスラブに共通の技術的課題であるということができる。

そうであれば、波形鉄筋の下端部と下弦主筋を固着(接合)した逆V字形鉄筋にコンクリートを打設してコンクリートスラブを作製するに当たって、コンクリートスラブの軽量化を図るために、第三引用例記載のものを第二引用例記載のスラブに適用して、逆V字形鉄筋の間に、軽量固形物を埋設するようなことは、当業者が容易になし得たことといえる。

原告は、本件発明及び第二引用例記載のものの鉄筋群と、第三引用例記載のものの鉄筋列とは、全く異質な形を有し、作用の仕方も全く異質であるから、前者の鉄筋群は後者の鉄筋列に相当しない旨主張する。

しかしながら、審決は、第三引用例については、そこに記載された鉄筋列の構造部分を引用したのではなく、所定間隔をおいて鉄筋列を並列配置したコンクリートスラブにおいて、スラブの軽量化を図るために、該鉄筋列の間に軽量固形物(硬質プラスチック発泡体丸捧)を埋設した状態でコンクリートを打設するという技術手段を適用したものであることは前記審決の理由の要点(請求の原因三)から明らかであるから、

両者の鉄筋群(列)の具体的形状及びその作用の異同を主張しても無意味である。

また、原告は、第三引用例記載のものを第二引用例記載のスラブに適用しても、第二引用例記載のものの波形鉄筋の下端部が固着構造でないことと、埋設プラスチック発泡体の存在する箇所のコンクリートが削除され下端部が係止である波形鉄筋の外側に位置するコンクリートが応力で破壊されやすいこととによって実用に供し得ない構成となる旨主張する。

しかしながら、審決は、相達点2において第二引用例記載のものに単純に第三引用例記載のものを適用したのでなく、

第二引用例記載のものにおける複数列の逆V字形鉄筋について、その波形鉄筋の下端部を下弦主筋に固着(接合)したものを逆V字形鉄筋列とし、これにコンクリートを打設してコンクリートスラブを作製するに当たり、コンクリートスラブの軽量化を図るために、第三引用例記載の鉄筋列の間に軽量固形物を埋設した状態でコンクリートを打設するという技術手段を適用したものであること前述のとおりであるから、

原告の前記主張はその前提において誤っており採用することができない。

〔四〕本発明の構成、作用効果について、

1 前掲甲第二号証の一、二によれば、本件発明は、

(1) 隣接する逆V字形鉄筋2、2間に軽量固形物4を埋設するか又は空間4Aを形成すること、及び在来方式よりも圧縮側の鉄筋量を減少できることによって、コンクリートスラブの軽量化を図り得る(本件公報第七欄第一二行ないし第一六行)、

(2) 逆V字形鉄筋2の存在によって、スラブとして要求される剪断、圧縮などの機械的強度を十分に確保できる(同欄第一七行ないし第一九行)、

(3) 逆V字形鉄筋2が部材相互の連梁性を発揮することも相俟って、スラブ全体を薄くて軽い割に、非常に頑丈なものになし得る(同欄第一九行ないし第七欄第二行)、

(4) 〈1〉 梁に対して上方からの荷重の曲げモーメントによってもたらされる側面図四五度方向の剪断力に対しては主筋1方向に連続する逆V字形によって対抗し得るとともに、

〈2〉 主筋1方向に対して直角な縦断面視における逆V字形によって梁の両側面側への破壊を防止し得る(本件補正公報下から第五行ないし第二行)という作用効果を奏するものであることが認められる。

しかしながら、

(1)の作用効果は、鉄筋列か逆V字形鉄筋からなること(第一引用例および第二引用例記載のもの)、及び隣接する鉄筋列の間に軽量固形物を埋設したこと(第三引用例記載のもの)という構成を採用することにより当然もたらされるものであり、また、

(2)及び(4)〈1〉の作用効果は、逆V字形鉄筋を有するスラブ(第一引用例及び第二引用例記載のもの)が本来有する機能であり、さらに、

(3)及び(4)〈2〉の作用効果は、逆V字形鉄筋の部材相互の連梁性、すなわち逆V字形鉄筋の下端部を下弦主筋に固着(接合)した構成を有すること(第一引用例記載のもの)が奏するものである。

したがって、本件発明の奏する前記(1)ないし(4)の作用効果は、いずれも第一引用例ないし第三引用例記載のものから通常予測できる範囲内のものにすぎないというべきである。

〔五〕 判決結論

以上のとおりであるから、審決の相違点1及び相違点2についての認定、判断に誤りはなく、本件発明は第一引用例ないし第三引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるから、審決に原告の主張する違法はない。

よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当として、これを棄却することとし、訴訟費用の負担については、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の各規定を適用主文のとおり判決するとするものである。

第三 上告理由

一 上告理由の第一点、

(一) 本件判決における違法な事実。

本判決は、前審において当業者の全く主張しなかった事実、即ち前記第二、の一、の(一)項で記したとおり、

(ⅰ) 副筋の機能が示されていない。(判決二四丁裏二行目乃至四行目の記載、および同二六丁表末尾二行の記載)

(ⅱ) 「本件特許発明において、副筋が技術的意味を全く有していない」

(二七丁表八行目乃至一〇行目)

(ⅲ) 「本件発明中の重要な構成要件である隣接並設の複数の逆V字状鉄筋が夫々独立したものである。」

(二八丁表二行目乃至八行目)

なる裁判所独断により誤った裁判所新見解(この新見解が誤ったものであることは、後記(三)、項で詳述する。)を原審判決の理由の項の約三分の二の文言を用いて表わし、この原審判決のこの新見解について、上告人(原審の原告)ならびに被上告人(原審の被告)に対し、何ら、釈明を求めることなく、右の原審判決の新見解の理由を以て

「このことを前提として、第二引用例記載のものに第一引用例記載のものを適用することの困難性について検討すると、第一引用例には、前記のとおり、一列の逆V字状鉄筋を有していて、その波形鉄筋の下端部を下弦主筋に接合したものが示されているから、第二引用例記載のものにおいて、各ウエブ斜材対(本件発明の「逆V字状鉄筋2」に相当する。)の波形鉄筋の下端部を下弦主筋である二重棒に接合するようにすることは格別困難なことではないというべきである。」

(判決二八丁裏三行目乃至末行の記載)

なる誤った判決判断を為し、これによって、

「第二引用例には、ほかに接合の構造を用いる技術について記載も示唆も存しないとしても、第一引用例に記載された前記接合構造を第二引用例記載のものに適用してみようと試みることは、さして困難なことではない。」

(判決三二丁表四乃至八行目の記載)

と誤って判断し、結果において

「波形鉄筋の下端部と下弦主筋を固着(接合)した逆V字形鉄筋にコンクリートを打設してコンクリートスラブを作製するに当たって、コンクリートスラブの軽量化を図るために、第三引用例記載のものを第二引用例記載のスラブに適用して、逆V字形鉄筋の間に、軽量固形物を埋設するようなことは、当業者が容易になし得たことといえる。」

(判決三五丁裏六行目乃至三六丁表一行目の記載)

と誤って判決し、また、

「本件発明の奏する前記(1)ないし(4)の作用効果は、いずれも第一引用例ないし第三引用例記載のものから通常予測できる範囲内のものにすぎないというべきである。」

と判決し、よって、

「以上のとおりであるから、審決の相違点1及び相違点2についての認定、判断に誤りはなく、本件発明は第一引用例ないし第三引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるから、審決に原告の主張する違法はない。」

なる重大な判決結果を誤るに至ったものであるからこの裁判所新見解による本件判決は裁判構成の根本である弁論主義に反する違法なものであって取消をまぬがれないものである。

(二) 違法である理由

前記裁判所新見解が前審裁判における判決に対する重要な主要事実に関するものであって、且つ、

原審裁判に当業者の全く主張しなかった事実について原審裁判が独自に認定したものであり、且つ、

重要な判決結果を誤らせるに至ったものであるから、

本判決は、弁論主義に違反したものであり、審理不尽、理由不備の違法を犯したものであることが明らかなものである。

故に原審判決は、取り消されるべきものである。

(昭和五五年一〇月五日第一法規出版株式会社発行、注解民事訴訟法(6)上訴、表紙、第三四六頁乃至第三四八頁及び奥付けを参考資料2として添付します。)

(三) 本判決の前記新見解が誤りであることの理由、並びに前記新見解に理由齟齬、理由不備の違法のあること。

1 (前記新見解が誤った判断であることの理由と、理由不備の違法理由)

(1) 裁判所新見解が誤ったものである理由

前記(一)項に記載の本判決の新見解が誤ったものであることは、次の理由から明らかである。

即ち、本発明における副筋について

(a) 「本件発明において副筋3を配設したのは、複数列の逆V字形鉄筋2、2の構成をとったことにより幅広となったコンクリートスラブについて幅方向の機械的強度をもたせるためであると解される。」

(本判決二六丁裏末尾三行の記載)

(b) 「本件発明において、副筋を設けた点は、本件発明の目的、作用効果との関係において複数列の逆V字形鉄筋2、2を並列配置した構成を採用したことにより幅広となったコンクリートスラブについてその幅方向の機械的強度をもたせたことに技術的意義を有すると解さざるを得ない。」(本判決二七丁裏末尾四行および同裏冒頭二行の記載)

として本判決は副筋が機械的強度を分担していることを明らかに認めているものである。

然して、

(ⅰ) 本件発明においては、隣接逆V字形鉄筋の脚部が下弦梯子格子補強網の主筋に固着係合されているものであり、且つ、

(ⅱ) 後記四、の(四)項で記載のとおり、本件発明中の下部梯子格子補強網を構成する副筋と主筋とは、少なくともコンクリートによって結合されているものである。

(ⅲ) 以上の次第であるから本件発明における副筋は隣接する逆V字形鉄筋の間でのみ、前記隣接逆V字形鉄筋とは機械強度上で無関係に作用することは、あり得ないものであること。

は、極めて常識的に理解されるものである。

従って本件発明からは、その構成要素相互間の有機的な結合による作用効果として後記四、項に記した如く、前記第二、の二、の〔四〕の1項に記された(1)乃至(4)の「本件発明による作用効果」が得られることが解される。

故に、本件発明における副筋が主筋と共に構成する本発明中の「本審決にいう下弦梯子格子補強網」を介して逆V字形鉄筋の脚部と連結され、本件発明における(1)乃至(4)の作用効果を奏するものであるから、前記本件判決新見解が全く誤ったものであることが明らかなものである。

なお、本件発明における副筋が本発明中の他の要素と有機的に結合されて、本件発明の(1)乃至(4)の優れた作用効果を奏するものであることは、本件特許明細書に記載の全趣旨から明らかであり、殊に本件特許公報甲第二号証の一の第七欄三行目乃至一二行目の記載および同一二行目乃至第八欄第二行目の記載および、甲第二号証の二の補正明細書の記載と本件特許請求の範囲の項の記載の全体からみて明らかである。

(2) 理由不備の違法理由

故に、本判決における前記裁判所新見解が、本件判決理由によっては、合理的に理解し得ないものであって、右新見解は常識論理に反し、論理の辻褄の合わない事実認定であるから、この点で本判決は理由不備の違法を有しているものである。

(3) 裁判所新見解についての理由齟齬

以上の理由から、本判決中の次の判決判断が誤ったものであることが明らかである。

(ⅰ) 「本件発明においては、逆V字形鉄筋2を副筋3の長手方向に適当間隔を隔てて配置したものであるが、副筋3については、「副筋3を用いて複数列の各逆V字形鉄筋2に機械的強度をもたせたものとはいえない」(本判決二六丁裏冒頭一乃至第五行目の記載)

〔本判決の右新見解の誤りの詳細理由は、後記四、の(四)の(1)乃至(3)項に記載の作用効果を本件発明が有しているものであるから、本判決の右新見解が誤ったものであることが明らかである〕

(ⅱ) 「本件発明において、特に波形鉄筋の各下端部が主筋1だけに接合したものについては、副筋3と逆V字形鉄筋2との間に機械的強度上の関連がないばかりでなく、逆V字形鉄筋2、2相互間においても副筋3を用いて機械的強度をもたせたものではないといわざるを得ない。」

(本判決二六丁裏五乃至九行目の記載)

〔本判決の右新見解が誤りであることの理由は後記四、の(四)の(1)項に記載の作用効果から見て明らかである〕

オムニア床版においては軽量固形物又は空間を設ける為にはその周りを丈夫に構成する必要のある事を容易に解しているものである。

しかして、本判決が前記(1)の(a)(b)項に記載の認定をなした事は本件発明の副筋が機械的強度を分担していることを認めているものである。

(ⅲ) 本件判決第二七丁表第八乃至同裏二行目に記載の判決部分に対する

前提として記された

「本件発明が複数列の逆V字形鉄筋2、2を並列配置したのは、特に逆V字形鉄筋2の機械的強度上の配慮からなされたものであるとは解されない。」

(判決第二七丁表第一乃至七行目の記載)

(本判決の右新見解の誤りである事が次の理由から明らかである。

即ち、本判決二七丁表第四および五行目の

「本件発明が複数列の逆V字形鉄筋2、2を並列配置したのは、逆V字形鉄筋2、2の間に軽量固形物(4)を埋設するか又は空間(4A)を形成する構成を採用するに当たって、少なくとも隣接する二列の逆V字形鉄筋2、2を具備することが不可欠であったためであると推認される。」

なる記載からみて薄いオムニア床版において軽量固形物4を又は空間4Aを内在させる場合は丈夫な逆V字形鉄筋2、2を両脇に隣接対設させる事が不可欠である事を本判決自体が明らかに認めていることを示すものである。

この副筋が床スラブの全巾にわたって存在するものであり、この副筋が主筋とともに下弦梯子格子補強網を構成しコンクリートで連結されており、かつ、この主筋に複数逆V字形鉄筋の脚部が固着連結されているからこの連結によりこれらすべての部材が強度的に互いに助け合ってこの床スラブ全体を非常に丈夫なものに構成している事が容易に解されるものである。

従って、本判決の前記新見解が誤ったものである事が明らかである。〕

(ⅳ) 「逆V字形鉄筋2と副筋3との間の配設関係については示されているが、複数本並列配置した逆V字形鉄筋2と副筋3との間の機能上の関係(技術的意味)については何も示されていない」

(本判決二四丁裏冒頭八ないし第四行目の記載)

(ⅴ) 「副筋の機能について特に記されていないことが認められる。」

(本判決二六丁表末尾二行の記載)

(ⅵ) 「本件発明において、特に波形鉄筋の各下端部が主筋1だけに接合したものについては、副筋3と逆V字形鉄筋2との間に機械的強度上の関連がないばかりでなく、

逆V字形鉄筋2、2相互間においても副筋3を用いて機械的強度をもたせたものではないといわざるを得ない。」

(本判決二六丁裏第五乃至九行目の記載)

(ⅶ) 「本件発明において、副筋3を設けた点は、本件発明の目的、作用効果との関係において技術的意義を有するのではない」

(本判決二七丁表第八乃至一〇行目の記載)

なる本判決新見解が誤ったものである事は既に記した理由で明らかである。

(4) (理由不備の違法)

前記(3)項に記載の裁判所新見解は、いかなる理由によってこれら新見解が生じたものであるかを、本判決に記載の理由をもってすれば論理的に全く理解することができないものである。

従って、前記裁判所新見解を基とする本判決部分は理由不備の違法理由を有するものである。

(5) (理由齟齬による理由不備の違法)

前記(一)の(a)(o)項に記載の本判決判断は前記(3)の(ⅲ)項に記した本件発明における作用効果を理解させるものである。

従って前記(3)の(ⅰ)乃至(ⅴ)項に記載の本判決判断理由と前記(a)(b)項に記載の本判決判断とは互いに矛盾する判決判断である。

従ってこの故をもって前記(3)項に記載の本判決中の新見解を本判決理由をもってしては合理的に理解する事ができない。

この点で本判決の新見解と前記(a)および(b)項の本判決見解とが矛盾するものであり、もって本判決の結論を誤らせるに至ったものであるから本判決は理由齟齬理由不備の違法なものであって、本判決は取消されるべきものである。

二 上告理由の第二点(本件審決における相違点2についての審決の認定、判断に関する、前審の判決理由における理由不備の違法)

(一) 上告理由第二点のその一、(理由不備である判決部分)

本件判決の第三六丁裏第四行目乃至第三七丁表第一〇行目において、

「原告は、第三引用例記載のものを第二引用例記載のスラブに適用しても、第二引用例記載のものの波形鉄筋の下端部が固着構造でないことと、埋設プラスチック発泡体の存在する箇所のコンクリートが削除され下端部が係止である波形鉄筋の外側に位置するコンクリートが応力で破壊されやすいこととによって実用に供し得ない構成となる旨主張する。

しかしながら、審決は、相違点2において第二引用例記載のものに単純に第三引用例記載のものを適用したのではなく第二引用例記載のものにおける複数列の逆V字形鉄筋について、その波形鉄筋の下端部を下弦主筋に固着(接合)したものを逆V字形鉄筋列として、これにコンクリートを打設してコンクリートスラブを作製するに当たり、コンクリートスラブの軽量化を図るために、第三引用例記載の鉄筋列の間に軽量固形物を埋設した状熊でコンクリートを打設するという技術手段を適用したものであること前述のとおりであるから、原告の前記主張はその前提において誤っており採用することができない。」

と記載された点で、本判決は、理由不備の判決をされたものである。

(二) 理由は次のとおりである。

即ち、前記(一)項に記した部分は、本件審決の理由の重要な部分を読み誤まれた結果による判決であるから、前記(一)項に記載の判決が何故にこの結論に達されたものであるか不明である。

何故なれば、本件審決の該当部分は

「相違点2について、スラブの一定方向に所定間隔において並列して上下弦材および繋ぎ筋より構成される鉄筋列を設け、相互の鉄筋列の間に軽量発泡体丸棒を同方向に設け、コンクリートを打設したスラブは第三引用例に記載されており、本件特許発明の逆V字形鉄筋、主筋等で構成される鉄筋群も、前記鉄筋列に相当するものと認められる。

審決論理は、

「 第三引用例記載のものを第二引用例記載のスラブに適用しても、それによって予測できないような作用効果を奏するものとは認められず、相違点2において本件特許発明のようにすることは、当業者において適宜容易になし得た事柄と認められる。」

なるものである。

(上告人註……両者における鉄筋列が同一のものでないことは、被上告人自身も認めたことは、本件判決の第二〇丁表第六行目の記載から明らかである。

また第三引用例の技術内容の内で、鉄筋の配列の点を、〔明瞭でないから〕本件審決認定の通りであるとは原告が認めなかったことは、第二回準備手続調書の原告二、の項の記載から明らかである。)

しかして、審決にいう相違点になるものは、

「○相違点2

本件特許発明では副筋の長手方向で隣接する逆V字形鉄筋間に軽量固形物を埋設する(または空間を形成する)状態にコンクリートを打設したのに対し、第二引用例記載のものでは逆V字形鉄筋間に軽量固形物を介在させたり空間を形成したりすることなくコンクリートを打設した点。」

なるものである。

然して、審決にいう

第三引用例記載のもので適用されるものは、コンクリートスラブの中の隣接骨組鉄筋の間に軽量固形物を設ける構成である。

しかして、また適用を受ける第二引用例記載のスラブは、下弦梯子格子補強網に逆V字形鉄筋の脚部が係止された構造である。

したがって、審決第四丁表一六行目乃至一七行目に記載のとおり第三引用例記載のものを第二引用例記載のスラブに適用しても、適用される場が逆V字形鉄筋の脚部が係止されているに過ぎないものであるから、軽量固形物を介在させると、係止部の構造が弱いので薄いオムニア床版では弱くなり、実用に供して得ないものである。

それ故に、かかるものは、そもそも発明の対象になり得ないものである。

次に、審決第四丁表末尾三行に記載の「相違点2において、本件特許発明のようにすること」とは、本審決に言う相違点2の意味が前記のとおりのものであるから、相違点2において、本件特許発明のようにすることとは、第二引用例の構造、即ち逆V字形鉄筋の脚部が下弦面筋に係止の状態のもので、逆V字形鉄筋の間のコンクリート内に軽量固形物を内在させるものである。

右の構造は、また係止部構造なるが故に、軽量固形物が内在させられると、前記係止部分において、構造が一層弱いものとなるので、実用に供し得ないものである。

かかる構造は特許発明の対象になり得ないものである。

故に、審決理由によって本件発明が引用例から当業者が容易に推考し得るとの論理は成り立たない。

言い換えれば、審決理由によれば、下弦梯子格子補強網構造と、逆V字形鉄筋の脚部を固着連結する構造と軽量固形物を内在させる三者の構造を組み合わせることにより、明細書の記載目的を達成する床スラブを容易に得ることができたとする論理が全く存在しない。

本判決は、この発明構造が当業者において、容易に発明し得たものであるとする論理を全く有しない。

そもそも、本判決は、本発明物とは異なるもの、即ち接合固定構造を持たない床スラブを発明対象として、論じているに過ぎないことを看過したものであって、審決の理由を正しいものであると立証し得なかったものである。

故に、本件判決理由には、審決が合法なものであるとする論理を全く有していない。

したがって、本判決には理由不備の違法があり、取り消しを免れ得ないものである。

三 上告理由の第三点、(相違点1についての本判決の理由不備)

(一) 違法の事実のその一、

本判決が

(ⅰ)「このことを前提として、第二引用例記載のものに第一引用例記載のものを適用することの困難性について検討すると、第一引用例には、前記のとおり、一列の逆V字形鉄筋を有していて、その波形鉄筋の下端部を下弦主筋に接合したものが示されているから、第二引用例記載のものにおいて、各ウエブ斜材対(本件発明の「逆V字形鉄筋2」に相当する。)の波形鉄筋の下端部を下弦主筋である二重棒に接合するようにすることは格別困難なことではないというべきである。」

(本判決二八丁裏第三乃至末尾行の記載)

(ⅱ) 「そうであれば、第二引用例に前記認定の記載があっても、また、第二引用例には、ほかに接合の構造を用いる技術について記載も示唆も存しないとしても、第一引用例に記載された前記接合構造を第二引用例記載のものに適用してみようと試みることは、さして困難なことではない。」

(本判決三二丁表第三乃至八行目の記載)

なる判決にいたった理由が不備であって違法なものである。

(二) 前記(一)の(ⅰ)項記載の判決の違法の理由

前記(一)の(ⅰ)項に記載の判決の冒頭に

「このことを前提として」

と記されているが、この前提なるものは前記一、の(一)項の(ⅰ)乃至(ⅲ)項に記した前記裁判所新見解が正しい事を前提とする事を表しているものである。

しかるところ前記裁判所新見解が違ったものである事は前記一、の(三)項の記載から明らかである。

従って、前記の「前提」が誤ったものであるから、この「前提」を基礎とする前記(ⅰ)項の本件判決の理由は根拠を失ったものである。

また前記(ⅱ)項に記載の本判決判断は、その冒頭において、

「そうであれば」

との前提の許になされた判決判断である。

然して、前記のとおり、前記(ⅰ)項記載の判決判断が根拠を失ったものであるから、この(ⅱ)項に記載の判決判断もまた根拠を失ったものであるから、この本判決部分は論理的に理解することができない。

故に本判決結論は、その理由に根拠を失ったものであって、本判決結論に対する理由を合理的に理解し得ないものである。

故に、本件判決は、理由不備の違法なものであって、取消しを免れないものである。

(三) 違法の事実のその二、

1 重量な判断を誤った事実

本判決は

「第一引用例には、前記のとおり、一列の逆V字形鉄筋を有していて、その波形鉄筋の下端部を下弦主筋に接合したものが示されているから、第二引用例記載のものにおいて、各ウエブ斜材対(本件発明の「逆V字形鉄筋2」に相当する。)の波形鉄筋の下端部を下弦主筋である二重棒に接合するようにすることは格別困難なことではないというべきである。」

(本判決二八丁裏末尾七行の記載)

なる判断をする事によって、本判決の結論を誤らせる重要な判断誤りをなした違法なものである。

2 この重要な判断が誤りである理由

原告は、第一引用例において接合固着を用いる得る理由として、第一引用例が簡単な逆V字形鉄筋が一列である単なものであることのみならず、本判決第三二丁表及び裏にも記されているとおり、そしてまた本件審決第二丁裏第六行目に記されているとおり、第一引用例構造が、非対称形につくられているが故にこそ接合固着を採用し得たものであることを主張して来たものである。(原告第六回準備書面(昭和六二年九月一四日付)第一頁乃至第七頁、殊にその第四頁以降))

(1) 第二引用例の構造

本件判決第三二丁裏第四行目乃至第三三丁表冒頭二行で本判決が認めているように、

第二引用例の構造は、

「前掲甲第四号証によれば、第二引用例は、上弦材および下弦材に共に剛節的に取付けられたウエブ斜材を有する普通の種類の梁では実際上、個々の要求を満たすように梁をアーチ状に彎曲せしめることは不可能である(第三欄第四〇行ないし第四三行)」

なるものであり、

「第二引用例は、ウエブ斜材が上弦材及び下弦材に剛節的(第二引用例にいう「剛節的」とは、その記載内容からみて「接合」の意味と解される。)に取付けられた場合、梁が曲げにくく、個々の要求を満たすことができない」

なるものである。

然してこの第二引用例の構造は第二引用例の構造について、本判決がその三〇丁裏末尾七行および三一丁表第一および二行目で認められている通り、

(ⅰ) 「「上弦材、下弦材および中間のジグザグ状のウエブ材より成るこれらの梁の普通の形状は、この場合不都合な事態を生ぜしめた。プレキャスト部分の補強材が例えば溶接金網より作られている限り、この型式の梁は単に、金網の上に置かれてこれにワイヤで取付けられうるにすぎない。トラス荷重から生じる鉛直力成分は従って、このような弱いワイヤ接合点によってしか受取られない。」(第二欄第三三行ないし第三欄第二行)」

なるものである。

(2) しかるに本判決が本判決第三二丁表第五乃至八行目において

(ⅱ) 「第一引用例に記載された前記接合構造を第二引用例記載のものに適用してみようと試みることは、さして困難なことではない。」

と判断された点で、本判決は重要な判断事項を誤って、よって判決結論を誤らせるにいたられたものであるから、本判決は右の点で重要な判断を誤られた違法なものであって、取消を免れないものである。

3 右判決理由が誤ったものである事の詳細理由

(1) 本件審決が第二引用例および本件発明の構成を認定するにあたり、本件発明における下弦梯子格子補強網が、第二引用例の下弦梯子格子補強網に該当するものであると認定された事がこの審決第三丁表第一三乃至一八行目における

「本件特許発明と第二引用例記載のものとを対比してみると、本件特許発明における「主筋」「逆V字状の鉄筋」「副筋」は、それぞれ第二引用例記載のものの「圧縮上弦材および二重棒」「ウエブ斜材対」

「個別棒」に相当すると認められる」

との審決認定から明らかである。

(2) しかして前記2の(ⅰ)項の記載は第二引用例の構造が

「対称的な下弦梯子格子補強網を用いる限り逆V字形鉄筋列は、金網の上に置かれてこれにワイヤで取付けられうるにすぎないもの」

である事を示し、

「このような弱いワイヤ接合点によってのみ受取られ得るにすぎないもの」

である事を示しているものである。

この事は第二引用例の構造が下弦材として下弦梯子格子補強網を用いる限り、

「これと組み合わされる逆V字形鉄筋列は前記下弦梯子格子補強網の上に置かれて、たとえばワイヤによるがごとき弱い取付け方法で取付られ得るにすぎないもの」

である事を示すものであり、この第二引用例には実質的に前記構成以外には何ら示されていなかったものである。

(3) 他方第一引用例の構造は甲第三号証の第三欄第一七行目乃至二二行目に記載のとおり

「本発明の梁は、下部弦材1および2と上部弦材3とよりなり、これらの弦材はトラス斜材として機能する湾曲部材4によって、特に溶接により相互に連結されている。該湾曲部材4は非対称形につくられている。」

なるものであって、かつ、

本判決三二丁裏冒頭三行で原告が主張していたところの、そして甲第三号証の第二欄第三六行目乃至第四〇行目に記されているとおり

「湾曲部材を上記のごとく非対称形につくりそしてその延長部を互い違いに置くことによってのみ、実際上この鋼鉄建築材料は静力学的にも必要なものとなり、トラス斜材のために使用されるようになるのである。」

なる構造のものである。

そして、この非対称形につくることがこの構造において必須要件である事が示されている。

従って、この

「のみ」の語

の記載と

「使用されるようになるのである。」

なる記載からみてこの甲第三号証の第一引用例の構造は、スラブ全巾にわたる副筋のかわりに非対称形に湾曲部材(4)を用いる事によってのみ実用に供され得る技術であることのみが示されているにすぎない。

(4) 第二引用例の構造と第一引用例の構造を対比すると両者は逆V字形鉄筋を用いる点において共通であるが

(ⅰ) 第二引用例の構造は

A 上部な対称形下弦梯子格子補強網を用いながら、

b 逆V字形鉄筋梁との結合を

ワイヤのごとき弱い構造で連結させるものである。

(ⅱ) 第一引用例の構造は

前記の第二引用例の構造とは反対に、

a 弱い非対称形の下弦材を用いる代わりに

B 逆V字形鉄筋との結合を溶接なる強固な連結構造を用いるものである。

(5) まとめ

以上要するに下部弦材と逆V字形鉄筋とを連結して組み合わせて

オムニア床版を構成するに当たり、

下部弦材の強さと

前記連結部の連結強度とを

いずれか一方を強くし、他方を弱く構成させることによって

顕著な同一性を有しているものである。

これを要するに両者を共に強く構成する事は不都合を生じること

を感じさせるものである。

そもそも、本件発明は甲第三号証の第一欄第三一及び三二行目に記載のとおり、床版として用いられるコンクリートスラブを対象とするものであって、この種の逆V字形鉄筋使用のオムニア床版である第一引用例、第二引用例の構造は、下部半製品状態で設置された後にその上に上半部のコンクリートが現場で追加され仕上がった後に、上記追加コンクリートの重さの故に、中間部がやや垂下した状態になることを避ける為に、工場生産の時には造り易い為に予め水平直線状に造った前記下部半製品を、現場設置する時にややアーチ状の中高に姿勢させ、もって総仕上がり状態で水平直線状に仕上げて実施されて来たものであって、前記共通性格はこの種のオムニア床版である第一引用例と第二引用例における強い共通の性格である。

ことに第二引用例の構造は、前記連結部の強度を弱くしてのみ用い得るものであるにすぎない事が明確に表しているのでこの第二引用例については前記連結部構造を強くしては用い得ないものである事が明確に表されていたものである。

かかる技術思想のみが示されていたにもかかわらず、

本判決が第二引用例の連結箇所に第一引用例における強固な固着構造を適用する事が当業者にとって各別困難でないとする事にその理由を全く有していない。

あえて、言えば本判決の理由は第一引用例の構造が接合固着の構造であり乙第四号証における壁構造に適要された連結構造が固着構造であるとする理由だけである。

この理由をもってしては判決理由として不足である。

何故ならば、乙第四号証の固着される構造床上の荷重によって湾曲させられる性質の床版ではない。

かつ、乙第四号証において床上の荷重を受ける逆V字形骨組み構造を用いながら、連結部については固着構造を用いる事が表されておらず、壁構造とは異なるものである事が示されているのである。

以上を要するに乙第四号証では床構造においては前記連結部において固着の構造の避けられている事が表されているのである。

この事は原審における原告第六回準備書面(昭和六二年九月一四日付)に記されていた通りである。

以上の次第であるから、本判決理由によっては判決第三二丁表五行目乃至第八行目に記載の

「第一引用例に記載された前記接合構造を第二引用例記載のものに適用してみようと試みることは、さして困難なことではない。」

なる判決判断にいたる論理を合理的に理解する事ができないものである。

いずれにしても、本件判決に記載の理由は、本件判決結論にいたる論理を合理的に理解させ得るものではないので、理由不備の違法なものであって取消を免れないものである。

四 上告理由の第四点

(一) 違法の事実

「 本件発明の奏する前記(1)ないし(4)の作用効果は、いずれも第一引用例ないし第三引用例記載のものから通常予測できる範囲内のものにすぎないというべきである。

以上のとおりであるから、審決の相違点1及び相違点2についての認定、判断に誤りはなく、本件発明は第一引用例ないし第三引用例の記載に基ついて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるから、審決に原告の主張する違法はない。」

との本判決判断は、何故にこの結論を判断されたのかが本件判決理由によっては不明である。

故に本判決は審理不尽、理由不備の違法なものである。

以下に項を追ってその理由を詳述する。

(二) 本件発明の前記(1)記載の作用効果について、

1 隣接する逆V字形鉄筋2、2間に軽量固形物4を埋設するか又は空間4Aを形成することによって、コンクリートスラブの軽量化を図り得る(本件公報第七欄第一二行ないし第一六行)、なる本発明の(1)をる効果は、本発明が、

「床スラブ全巾にわたる副筋を含む対称構造なるが故に丈夫な下弦梯子格子補強網の内の主筋に、逆V字形鉄筋の脚部が固着接合されることによって軽量固形物(4)または空間(4A)の両側の隣接逆V字形鉄筋が前記丈夫な対称形下弦梯子格子補強網により丈夫に連がれる逆V字形鉄筋」

を採用した事により初めて、この床スラブが薄いにかかわらず非常に丈夫なものとなし得たが故に軽量固形物(4)又は空間(4A)をオムニア床版コンクリート内に介在させ得た事により、オムニア床版において初めて得られるにいたった効果である。

2 しかるところ、本判決は、前記(1)の作用効果は「鉄筋列が逆V字形鉄筋からなること(第一引用例及び第二引用例記載のもの)、及び隣接する鉄筋列の間に軽量固形物を埋設したこと(第三引用例記載のもの)という構成を採用することにより当然もたらされるものである。」

と記載されているが

(ⅰ) 第一引用例には下部絃に非対称構造を有するのみで、対称構造である梯子格子状補強材への固着接合構造を有していない。

(ⅱ) 又、逆V字形鉄筋に固着接合された下弦主筋を含む前記梯子格子強網により連がれた隣接逆V字形鉄筋を有していない。

(ⅲ) したがって、前記本判決理由によっては、本発明の前記各要素の前記有機的な結合により奏される前記(1)の作用効果が当然にもたらされるものであるとする本判決論理は合理的に理解できないものである。

故に、右に記した理由で、本件判決は理由不備の違法な判決である。

(三) 本件発明の(2)の作用効果について、

「逆V字形鉄筋2の存在によって、スラブとして要求される剪断、圧縮などの機械的強度を十分に確保できる(本件特許公報甲第二号証の一、第七欄第一七行ないし第一九行)」

なる本件発明の(2)の作用効果は

「逆V字形鉄筋を有するスラブ(第一引用例及び第二引用例記載のもの)が本来有する機能である。」

と記されているがこの判決理由には論理がない。

何故ならば、本件発明における逆V字形鉄筋2は、その両脚部下端が各々、床スラブ全幅にわたる副筋を含み対称形で丈夫な下弦梯子格子補強網の主筋に固着接合されているものであるからこそ、この床スラブが薄いにかかわらず、軽量固形物4又は空間4Aを介在されることによって弱体化する事を防ぎスラブとして要求される剪断、圧縮などの機械的強度を十分に確保できる。

(本件特許公報第七欄第一七行ないし第一九行)にいたったものである。

本判決に言う第一引用例にも、そして又、第二引用例に記載のものも、前記構成および前記作用効果を全く有していない。

故に本判決の右理由には全く論理性がない。

即ち、本判決には、右判決部分が複数の並列逆V字形鉄筋を連ぐ対称形下弦梯子格子補強網を有しない第一引用例並びに、逆V字形鉄筋の脚下端を固着した構造を有しない第二引用例から如何なる理由によって結論付けられるものであるかを論理的に理解し得ないものであるから、この判決部分は理由不備の違法なものである。

(四) 本件発明の(1)乃至(4)の作用効果について、

(1) 甲第こ号証の一をる本件特許公報の

「前記逆V字形鉄筋2の存在によってスラブとして要求される剪断、圧縮などの機械的強度を十分に確保でき、しかもこの逆V字形鉄筋2が部材相互の連梁性を発揮することも相俟って、スラブ全体を簿くて軽い割に、非常に頑丈なものになし得る(本件特許公報第七欄第一九行ないし第七欄第二行)」

なる作用効果ならびに甲第二号証の二に記載の作用効果は本発明においては、次の事情から奏されるものである。即ち、鉄筋とこれを包むコンクリートとの間には、比較的に強い結合力が存在していることは常識的に一般に知られていることである。一般にその表面積ごとに、コンクリートの圧縮力の約10乃至15%に相当する結合力が存在するものである。(本判決中の裁判所新見解が突然表れたので参考の為に小野竹之助著 森北出版株式会社発行の「増補・改訂コンクリート工学材料篇」 (昭和三九年二月二五日増補改訂第一一版発行) (参考資料1)を添付する。〕

従って、本件発明における下弦梯子格子状補強網の副筋と主筋との間に、溶接による固着がなくてもこれらを包むコンクリートの力によって機械的に連結されているものである。

本件発明は少なくともコンクリートによるかかる機械的結合力で副筋と主筋とが結合された下弦梯子格子補強網の主筋に複数列の逆V字形鉄筋の両胸部下端が各々固着接合され、この副筋とコンクリートにより連結されている二つの主筋から固着連結され乍ら、隣接の複数逆V字形鉄筋が、踏ん張って立っている状態であるから、隣接逆V字形鉄筋列は丈夫な下弦梯子格子補強網で丈夫に連がれているのである。

従って、本件発明において、特に波形鉄筋の各下端部が主筋1だけに接合したものにおいても、副筋3と逆V字形鉄筋2との間に機械的強度上の相互補助の関連があるばかりでなく、逆V字形鉄筋2、2相互間においても副筋3を用いて機械的強度をもたせたものである。

故に、その間のコンクリート内に軽量固形物又は空間が介在されることによって弱体化する事を、このスラブ全体を薄くて軽い割に非常に丈夫なものに成し得ることによって、防止し得る効果を奏するに至ったものである。

右本件発明の(1)乃至(4)の作用効果は、弱い非対称形であって床スラブ全幅にわたる副筋を有せず、かつ逆V字形鉄筋をただの一列に有するにすぎない第一引用例記載のオムニア床版構造によっては奏することができない作用効果である。

即ち、本件発明の作用効果は本件判決が言うところの、 「第一引用例記載のものが奏するもの」では全然ないから、本件判決理由には全く論理性がない。

故に右判決の論理がいかなる理由で支持されるものであるかが本件判決理由によっては全く理解できない。

(2) 尚、補足的に説明すると、本件発明においては対称形であるが故に丈夫であって、床スラブ全体にわたって存在する「少なくともコンクリートによって結合されている副筋と主筋とからなる強力な下弦梯子格子補強網」の隣接主筋に対して夫々、複数逆V字形鉄筋列の各両脚下端部が固着され、強固に両脚で踏ん張っている形の鉄筋列と前記下弦梯子格子補強網および上部副筋とによって、主筋長さ方向視で四角枠型鉄筋骨組が非常に丈夫に構成されるので、前記四角枠型鉄筋骨組はマッチ外箱が外力で菱形状に変形するがごとき弱い欠点がない。

(3) 又、逆V字形鉄筋の両脚部下端が各々少なくともコンクリートで結合されている副筋と主筋とを包む丈夫な下弦梯子格子補強網の隣接下部主筋に固着接合されているから多数の連続三角骨組の存在により非常に丈夫であるとともに主筋長さ方向視で逆Vの字形に見える両脚部下端の固着接合されている隣接下部主筋が副筋とコンクリートとで結合されていて、これらが主筋長さ方向視で三角状をなしているから本件発明のオムニア床スラブでは良好な連梁性が発揮されこの両脚部は、互いに離れる方向に変化することが強力に阻止されているので梁に対して上方から加えられる加重に起因して逆V字形鉄筋の両脚部が横外方へ広がろうとする事を、「副筋と主筋とのコンクリートによる結合」ならびに副筋自体とによって阻止されるから、本件発明は、その各構成要素の有機的な結合によってこそ

「主筋1方向に対して直角な縦断面視における逆V字形によって梁の両側面側への破壊を防止し得る(本件補正公報下から第五行ないし第二行)という作用効果を奏するものであって、本発明による床スラブは、上面視において、主筋の長さ方向にも、また副筋の長さ方向にもスラブ全体として薄くて軽い割に非常に丈夫なものとなし得るので、本発明の、前記(1)乃至(4)の作用効果を奏し得る優れた作用効果を有する」

なるものである。

(4) 以上の次第であるから、本判決三八丁裏第六乃至九行目に記載の

「本件発明の奏する前記(1)ないし(4)の作用効果は、いずれも第一引用例ないし第三引用例記載のものから通常予測できる範囲内のものにすぎないというべきである。」

なる判決結論が、判決三八丁表第六行目乃至同裏五行目に記載の

「(1)の作用効果は、鉄筋列が逆V字形鉄筋からなること(第一引用例及び第二引用例記載のもの)、及び隣接する鉄筋列の間に軽量固形物を埋設したこと(第三引用例記載のもの)という構成を採用することにより当然もたらされるものであり、また、(2)及び(4)〈1〉の作用効果は、逆V字形鉄筋を有するスラブ(第一引用例及び第二引用例記載のもの)が本来有する機能であり、さらに、(3)及び(4)〈2〉の作用効果は、逆V字形鉄筋の部材相互の連梁性、すなわち逆V字形鉄筋の下端部を下弦主筋に固着(接合)した構成を有すること(第一引用例記載のもの)が奏するものである。」

なる理由を以てしては、論理的に全く理解し得ないものである。

従って、本件判決はこの点において理由不備の違法な判決であって、以て、本判決が、原審決に違法がないとして、重大な判決結果を誤るに至ったものであるから、本判決は審理不尽、理由不備の違法を有しているので、本判決は、取り消しを免れないものである。

以上

添付図面-原判決添付と同一-省略

添付書類-参考資料-省略

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